30.フルサイズはAPS-Cよりもどの程度ボケるのか...計算してわかったこと②

APS-C(クロップ)+85mmレンズとフルサイズ+135mmレンズ、画角は同等だが 85mmレンズの方が最短撮影距離が短いケースも多く(特にオールドレンズ)、 「寄れる」メリットが大きなメリットを生み出します。 SIGMA 85mm F1.4 EX DG HSM + Pentax KP(APS-C)
APS-C+85mmレンズ VS フルサイズ+135mmレンズ、画角は同等だが
85mmレンズの方が最短撮影距離が短いケースも多く(特にオールドレンズ)、
「寄れる」メリットが大きなメリットを生み出します。
SIGMA 85mm F1.4 EX DG HSM + Pentax KP(APS-C)

APS-Cからフルサイズに移行すればどの程度ハッピーになれるのか?(その3)計算したらもっと大事なことがわかった...という話


計算をしてみてわかったことは次の7つでした。今回は5~7について書きます。


  1. ボケ量(被写界深度の薄さ)を得る上で、確かにフルサイズセンサーはAPS-Cよりも優位
  2. ただし同じ画角のレンズで同じ被写体を撮る場合、APS-C+F1.4 と フルサイズ+F2.8のボケ量を比べるとAPS-C+F1.4の方が上。
  3. APS-C、フルサイズとも、F値を小さくしてゆくことよりも、被写体へもっと寄って撮ることの方がより多くのボケ量を得られる。
  4. APS-Cからフルサイズへ移行するよりも、APS-Cのまま被写体へ寄って撮ることの方がより多くのボケ量を得られる。
  5. いわゆる「焦点距離の長いレンズの方が良くボケる」は、あくまで「同じ位置から撮影(当然被写体の大きさも変わる)」した場合のボケ量(被写界深度の薄さ)のこと。同じ被写体を同じ大きさで撮ろうとした場合、35mm F1.4でも85mm F1.4でも被写界深度は同等(びっくり)。この時、ボケに関して異なるのは背景にあるボケ像のサイズ(ボケた背景の見え方)。
  6. ある画角においては、ボケ量(被写界深度の薄さ)を得る上でAPS-C(もしくはフルサイズのAPS-Cクロップ)の方が有利なケースがある。例えばAPS-C 100mm F1.8に相当するボケ量が得られる同等画角のフルサイズ用150mmレンズは売られていない(と思う)。
  7. トリミング無しで子供やペットを適度な距離からアップで撮る場合、同じ画角でもAPS-C(もしくはフルサイズのAPS-Cクロップ)+85mmの方がフルサイズ+135mmよりも寄れる(例外レンズあり)のでボケ量を得るのには有利なこともある。


※「APS-Cで十分」だとか「やっぱりフルサイズ」だとか決めつけるものではありません(それは必要に応じて自分で決めるものだと思います)。自分で決めるために本質を理解しようとするプロセスが大事だと思います。


35mm F1.4と85mm F1.4はどちらの方がボケ量(被写界深度の薄さ)が大きいのか?

もしこの様な質問をされたなら、皆さんはどう答えるでしょうか。

ボケ量の話を調べて出てくるフレーズは次のようなものでしょう。
「1.明るい(F値の低い)レンズほどボケる」
「2.焦点距離の長いレンズの方がボケる」
「3.被写体に近づくほどボケる」
「4.被写体から背景が遠いほどボケる」

「2.焦点距離の長いレンズの方がボケる」のだから、35mm F1.4よりも85mm F1.4の方が当然薄い被写界深度が得られる...のでしょうか?

もっと言うと、85mm F1.4を使っていて「もっとボケが欲しい」と思ったら、更に焦点距離の長い大口径レンズ135mm F1.8を使えば(F値が1.4よりも高くても)、焦点距離が長くなるからボケる...のでしょうか?

前回同様、シミュレーションしてみました。
フルサイズカメラに35mm F1.4と85mm F1.4を取り付け、子供をバストアップで撮る様なシチュエーションを想定しています。

フルサイズ & 35mm レンズで子供のバストアップを撮る場合  青が画面一杯に子供のバストアップを撮る場合の撮影距離
フルサイズ & 35mm レンズで子供のバストアップを撮る場合
青が画面一杯に子供のバストアップを撮る場合の撮影距離

フルサイズ & 85mm レンズで子供のバストアップを撮る場合  青が画面一杯に子供のバストアップを撮る場合の撮影距離
フルサイズ & 85mm レンズで子供のバストアップを撮る場合
青が画面一杯に子供のバストアップを撮る場合の撮影距離

か...変わらないですね...。
35mm F1.4も寄ればすごくボケることは経験上分かっていましたが、85mm F1.4と被写界深度が同等だとは少し驚きました。


念の為、もう少し大きな被写体(大人にバストアップ)を撮る様なシチュエーションならばどうでしょう。

フルサイズ & 35mm レンズで大人のバストアップを撮る場合  青が画面一杯に大人のバストアップを撮る場合の撮影距離
フルサイズ & 35mm レンズで大人のバストアップを撮る場合
青が画面一杯に大人のバストアップを撮る場合の撮影距離

フルサイズ & 85mm レンズで大人のバストアップを撮る場合  青が画面一杯に大人のバストアップを撮る場合の撮影距離
フルサイズ & 85mm レンズで大人のバストアップを撮る場合
青が画面一杯に大人のバストアップを撮る場合の撮影距離

こちらも35mm F1.4と85mm F1.4で変わらない。

因みに同様のシミュレーションを55mmや135mmなどでも行ってみましたが、結果は同様でした。

つまり、同じ被写体を同じ大きさで画面に収めようとした場合、F値が同じならどの焦点距離を使ってもボケ量(被写界深度の薄さ)は同等 という事になりそうです。

注意が必要なのは撮影距離。焦点距離が変わると画角が変わるので、例えば35mm F1.4で子供のバストアップを目一杯大きく撮るためには相当近くまで寄る必要があります(上の計算では40cmまで寄っています:85mmでは1m弱)。


ここで疑問が1つ。
「2.焦点距離の長いレンズの方がボケる」は嘘なのか?いえいえそんなことはありません。ただし、「同じ撮影位置から撮るとしたら」という前提が抜けています。

上の大人のバストアップを85mmレンズで画面いっぱいに撮る時の撮影距離は1.93mですが、35mmレンズでは0.82m。85mmの半分よりもっと寄った所から撮っています。
85mmと同等の撮影距離まで下がるとボケ量がグンと減ってしまうことがイメージできます。

もう一つ疑問が。
被写界深度が同じなら、85mm F1.4よりもボケ量が少なくなる135mm F1.8を使うメリットは何?実際、撮影サンプルを見ると135mmの方がもっとボケているように見えるけど?

135mm F1.8で撮ったポートレートが、85mm F1.4で同じ様な大きさで被写体を撮ったポートレートよりももっとボケて見えるのは、ボケ量(被写界深度の薄さ)によるものでは無いのだと思います。

以下、画角の異なる2つのレンズで同じ被写体を同じ大きさで撮った場合の背景の写り方を簡易的に表してみました。

切り取られる背景の赤黒縞模様は20本。
画角が広いため、切り取られる背景の範囲も広いことがわかります。


切り取られる背景の赤黒縞模様は10本。
画角が狭くなると、切り取られる背景の範囲も狭くなることがわかります。

簡易的な表現ですが、画角の狭い望遠レンズで撮ると狭い範囲の背景が切り取られることがわかります。

ボカして撮っている背景の中の対象物は、85mmよりも135mmの方がサイズとして大きく写し出されることになるため、被写界深度とは違う次元で「大きくボケた」印象を与えるのだと思います。

ボケの印象は「被写界深度の薄さ」と「ボケ像のサイズ的な拡大」の複合で成り立っているということだと思います。


ボケ量(被写界深度)に関して、APS-Cはフルサイズに負けっぱなしなのか? 〜望遠域〜

SIGMAのAPS-C用 50-100mm F1.8 DC HSM というレンズがあります。
このレンズ愛用しております。ここぞという時に使いたい。

ただこのレンズ「開放からキレッキレ」だとか、「単焦点レンズ3本分以上の焦点域をカバー」だとか、「F1.8通しズームで単焦点レンズ並の画質」などのポジティブレビューがある一方で、「重すぎる」「寄れなさすぎる(最短撮影距離95cm)」といったネガティブレビューも見られます。

重いのは間違いなくウィークポイント、寄れないのも50mmワイド端で考えれば他の50mmレンズが最短40cmくらいで撮れるのに倍以上距離を取らなければならないのは明らかにウィークポイント。

ワタクシ、このレンズのピカイチなポイントはテレ端100mm F1.8にあると考えています(細かく言うと91mm~100mmのF1.8)。

APS-Cの100mmは35mmフルサイズ換算で150mm程度。
フルサイズ用で150mmの大口径単焦点レンズ(135mmを超える長さでF1.xの単焦点レンズ)なんてどのメーカーでも見当たらないように思います。あるのは70-200mm F2.8、70-300mm F2.8などのズームレンズ。

これらを計算・比較してみました。
上 APS-C + SIGMA 50-100mmテレ端開放で得られる被写界深度
下 フルサイズ + 70-200mm F2.8等の150mm開放で得られる被写界深度

青字同士の比較でAPS-Cの勝ちではないですか。差は微々たるもので計算上の誤差の範囲かもしれませんが...。
ともかく、ボケ量(被写界深度の薄さ)においてAPS-Cの方が有利なケースはあるということです
もちろんフルサイズカメラにこのAPS-C用レンズを付けてAPS-Cクロップモードにすれば同じだけど?」という意見は正しいです。
フルサイズには余裕があるということです。大は小を兼ねますね。

ボケ量(被写界深度)に関して、APS-Cはフルサイズに負けっぱなしなのか? 〜中望遠域〜

被写界深度について色々とシミュレーションしていて気づいた、APS-C(もしくはフルサイズのAPS-Cクロップモード)が有利な状況がもう一つありました。

それは被写体へもう一歩寄って撮ろうとした時です。

同じF値で同じ被写体を同じ大きさで撮ろうとした場合、フルサイズがAPS-Cよりも優位であることは前回触れた通り。...なのですが、更に寄ってアップを撮ろうとすると面白いことが起こります。理由はレンズの最短撮影距離。

例を挙げます。
フルサイズの85mm画角は、APS-Cでは56mm画角と近い(同じ距離から同じ被写体を同じ大きさで撮れる)。

そして、85mmは最短撮影距離80〜85cmぐらいのレンズが多いのに対し56mm最短50cmぐらいのレンズが多い。
なので、同じ画角でも「85mm+フルサイズ」より「56mm+APS-C(or フルサイズのAPS-Cクロップ)」の方が更に30cm程度寄れるということになります。

同じく、画角の近いフルサイズ135mm VS APS-C85mmでも、最短撮影距離が100cmを超えるようなフルサイズ用135mmレンズより、最短85cm程度のレンズ+APS-C(クロップ)の方が寄れます。
※フルサイズ用135mmについては、SONYの135mmGMなど、ものすごく寄れるものもありますが(最短撮影距離70cm)...。

前回の記事に書いたのですが、F値を小さくするよりも、またAPS-Cからフルサイズへ移行するよりも、「寄る」ことによるボケ量増加の恩恵は大きいです。

自分は、この恩恵を小さな子どもやペットなど、被写体が小さい時に感じることが多いです。

フルサイズを所有していなかった時に、Pentax KP(APS-C)にSIGMA 85mm F1.4 EX DG HSMやオールドレンズのKMZ Jupiter-9 85mm F2という組み合わせで子供の顔アップをたくさん撮っていました。

フルサイズカメラ入手後、同じ画角の135mm(Pentax FA135mm F2.8、CONTAX Sonnar 135mm F2.8など)を使うと、「思っていたよりも半歩下がらないと撮れない」「イメージしていた顔アップが撮れない」とがっかりしたことがあります。

トリミング無しで子供やペットを適度な距離からアップで撮る場合、同じ画角でもAPS-C(もしくはフルサイズのAPS-Cクロップ)+85mmの方がフルサイズ+135mmよりも寄れる(例外レンズあり)のでボケ量を得るのには有利なこともあるということですね。

もちろん、最短撮影距離はレンズによって異なるので一概に言えることではありません。特に最近の135mmは寄れるものが多いのですが、オールドレンズではこの傾向は顕著に表れる気がしています。

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