25.画質とボケ フルサイズの何がどのくらい凄いのか 自分なりに考えてみる

Image Sensor Comparison (APS-C vs APS-H vs FullFrame)
APS-Cからフルサイズに変えてもミクロの解像力は変わらない。
ただ、等倍ミクロから全体像までの拡大率が増す(ので解像感が増す)。

APS-Cからフルサイズに移行すればどの程度ハッピーになれるのか?


2018年秋のフォトキナにて、SIGMAが前々から噂のあったFoveonフルサイズミラーレス(ただし従前のSAマウントではなくLマウントで)を2019年にリリースすることを発表しました(⇒2019年のCP+にてリリース予定が2020年に伸びると発表されました)。さぁ、待ちに待ったフルサイズ、楽しみ!

...なのですが、そもそも自分は本当にフルサイズへ移行すべきなのでしょうか。今のAPS-C(sdQuattro)ではダメなのでしょうか。
そしてフルサイズFoveonを入手した暁には今のAPS-C用レンズは手放して新たにフルサイズ用レンズを買ってゆくべきなのでしょうか(金銭面でここが一番心配)。
実際にフルサイズFoveonがリリースされる前に、少し考えておきたいと思います。

「フルサイズは○○で凄い」的な記事はWebで山ほど見かけます。もちろんAPS-Cと比較したメリット・デメリット記事もたくさん。
多くの場合、フルサイズは重くて大きく高いけど...①画質が良い、②よくボケる(APS-CのF2.8のボケ味とフルサイズのF4のボケ味が同等) etc...といったフレーズが並びます。
そして、各社フルサイズミラーレスが出揃ってきたことで「重い、大きい」のデメリットも解消されつつある...というようなアフィリエーター達の物言い、私は嫌いです。
ビジネスの世界でも、早口でいい事ばかり言う営業マンは全く信用できませんが(そもそも本人が本質を理解していない)、まさにこれと同じ気分。

なので、聞こえのいいフレーズに踊らされること無く、無知は無知なりに自分で考えて納得したい。以下、自問自答形式で。

1.そもそもセンサーが大きくなるとはどういうことなのか。

・大きい=面積が広くなる...ってどの程度?

イメージ的にはAPS-Cのセンサーを縦向きにして、横に2つ並べたのが概ねフルサイズ相当らしい。面積は2倍になるのか。よく「フルサイズ換算は1.5倍」というフレーズが出てくるが、これに相当するのはセンサー対角線の長さのことらしい。「面積が2倍」と言われると相当大きくなる気はする。

・センサー上に並んでいる「画素は同じ」で、ただ範囲が拡がるだけなのか?それとも画素それぞれの大きさや性能からして全く違うのか?

SIGMAのHPで、現行のsdQuattro(APS-C)とsdQuattroH(APS-H)のセンサーの違いをよーく見てみる。
細かな計算は割愛するが、sdQuattroHのセンサー面積はsdQuattroの概ね130%。出来上がる画像の縦横サイズも大きくなり、これも面積で約130%。1平方ミリあたりの画素数を計算してみると極端な差はない。なので画素数も概ね130%。
※注:あくまでsdQuattro vs sdQuattroHの比較なので、一般論としてフルサイズ用センサーとAPS-C用センサーの画素・ピッチが同じだという話ではない。

もちろんどちらもFoveon X3。並んでいる画素は同じ。

「なんだ、画素やピッチは同じで単純に広くなった面積分の画素が増えるだけか」とも思うし「sdQuattroとsdQuattroHの面積差はたったの3割増しか無いのか」とも思う。
そして「フルサイズセンサーの面積がAPS-Cの2倍...って凄く大きい」ことはわかった。

2.フルサイズは画質が良いとはどういうことなのか。

(SIGMA sdQuattro vs sdQuattroHを例に考えた場合)
APS-Cとフルサイズで変わるのが、画素性能ではなく「センサー面積だけ」であることがわかった(もちろんフルサイズ用に専用の画素を開発するケースもあるだろうが)。

ここで一つ妄想できるのが、フルサイズFoveonではすごく大きな画像ができあがるだろうということ。今のsdQuattroでできる画像は5,424×3,616 pixels(sdQuattroHは6,192×4,128 pixels)、このままだとフルサイズFoveonでできる画像は7,500×5,000を超えてきそう(ちなみにSONYのα7は6,000×4,000)。

今使っているPCモニタ解像度が1,920×1,080 pixels。sdQuattroの画像は、モニタ全画面表示にしてもかなり縮小されており(等倍画像の面積はモニタ縦の9倍ぐらい)、これをマウスホイールでクリクリっと等倍まで拡大して「凄い解像っ!」と驚くのがSIGMAデジカメの醍醐味の一つであったりするが、フルサイズになったら、画像面積が更に倍でモニタの18倍ぐらいになる。確かに悶絶すること間違いなし...だとは思う。

あぁ、ここで納得。
画素もピッチも同じなら、フルサイズもAPS-Cもマクロレベルで捉えている情報は同じはず
レンズが同じで画素もピッチも同じなら、フルサイズもAPS-Cもミクロレベルで捉えている情報は同じはず

よく「フルサイズは画質が良い」と言われるけども...。
センサー上の画素と画素ピッチが同じとするならば、同じレンズを使って撮った写真を等倍に拡大した時のミクロエリアの画質(解像具合)は同じはず。つまり、同じ位置から同じレンズで撮った場合、APS-Cでは解像できなかったような遠方の看板の文字が、フルサイズなら読めるようになる「わけではない」
ただ、センサー面積が2倍なので、これまでAPS-Cで捉えていたエリアの「外側」に、これまで捨てていた大きな範囲の画像が手に入る。その分画像ファイルの縦横も大きくなる。
ミクロ領域から画像全体までの拡大率がAPS-Cの時よりも高くなるので「すっごく細部まで解像している気がする」というのがフルサイズ移行で手に入る「良い画質」の本質の様な気がする。
もちろん同じ位置からフルサイズで、APS-Cと同じ画角で撮ろうとすると焦点距離約1.5倍のレンズに付け替える必要がある。そうすると、APS-Cでは解像できなかった遠方の看板が読めるようになる。ただこれはセンサーの性能差ではなく単にレンズが望遠になったから ということになる。

「フルサイズなら高画質⇒すごく細部まで解像している」は正しいようだが誤解も招きやすい表現だと思う。「フルサイズもAPS-Cもミクロでは同じ解像力だけど、APS-Cより相当広い範囲をキャプチャするので、出来上がり画像の解像感は凄い」が正しい表現だと思う。

「画質の良さ」を求めてフルサイズに移行する理由としては、今のAPS-Cカメラで出来上がる画像の縦横サイズでは満足できない場合(非常に大きなプリントをする場合や8kクラスの解像度&大画面で写真鑑賞する場合だろうか)、そして等倍鑑賞のウハウハをもっと味わいたい場合...と言うことだろうか。

今のPC、プリント環境で7,500×5,000の画像は...自分には必要なさそう。
等倍鑑賞は...SIGMAのカメラはこれが魅力(魔力)なので非常に魅力的...。(超)広角レンズ+フルサイズFoveonで撮った風景写真を等倍鑑賞...変態的だが楽しそう。

3.フルサイズはよくボケるとはどういうことなのか。

何かの記事で、ボケを得るため条件として「大きなセンサーほどボケる」「大口径(F値の小さな)レンズほどボケる」「レンズの焦点距離が長いほどボケる」「被写体(ピント位置)に近づくほどボケる」「被写体(ピント位置)から背景を遠ざけるほどボケる」と読んだ。
2~5番目は手持ちのAPS-C機で実感できるが、1番目はどう捉えたら良いのか。
確かに、手持ちのNikon1(1インチ)、sd Quattro(APS-C)、フィルムカメラ(35mmフルサイズ)で撮った写真を見比べると後者ほど大きくボケて撮れている。
APS-Cで明るいレンズを頑張って購入しても、フルサイズ+標準レンズの足元にも及ばない というようなことでもあるのなら、移行を検討する十分な理由になりうる。

ただ問題は、フルサイズ化によるボケの増分がイメージできないことだ。ボケの仕組みについていろいろ読んでみたが、F値とボケの関係はなんとなくわかったような気がしても、センサーサイズとボケの関係はよくわからない。わからないが故に「フルサイズにしたらもっとボケた写真が撮れるのかも」という淡い期待を抱いてしまう。

...と、ここで、自分がフィルムカメラ(フルサイズ)用のオールドレンズをsdQuattroに付けていることを思い出した。

フルサイズがボケると言われる理由
フルサイズがボケると言われる理由

よくよく考えれば、ボケも含めた「像」を作るのはレンズの仕事。フルサイズカメラに付けようが、APS-C機に付けようが、レンズ自体が生み出す像・ボケ具合が変わるわけではない。

ただ、ここでまたもやセンサーの大きさが鍵になってくる。フルサイズでは「レンズが生み出す像の隅っこまで」切り取り、APS-Cでは「中央部分のみ」切り取るということが起こる。

中央部分のみ切り取る⇒像全体の中での被写体が相対的に大きくなってしまう(はみ出てしまう)⇒後ろに下がって撮影する⇒被写体との距離が離れるので、寄っていた時よりもボケは小さくなってしまう。

なるほど。フルサイズがよくボケると言われるのは、センサーサイズ単独の効果というよりは「同じ焦点距離のレンズを使って、同じ大きさで被写体を切り取ろうとした時にAPS-Cよりも寄れるから」「同じ位置からAPS-Cと同じ大きさで被写体を切り取ろうとした時に焦点距離1.5倍のレンズを使うから」というわけか。

4.では、フルサイズが被写体を大きく切り取れる(寄れる)メリットは、APS-Cで大口径レンズを使うことと比べてどれほど凄いのか?


自分は最近APS-C機にオールドレンズのJupiter-9(85mm f/2.0)を付けて絞り開放でポートレートを撮るのが好きだ。開放絞りだとシャープさは薄れ、ほわほわした雰囲気になるがそれもまた心地いい。
大人のバストアップ写真を撮るのに概ね2m程度、0歳児の顔アップ写真を撮るのに1.3m程度離れる感じだろうか。対人の距離感としては程よい具合だと思う。

「DoF Table」「SetMyCamera」などの便利なスマホアプリを使って、この時の被写界深度を計算すると...
絞り開放時、前者(大人バストアップ)における被写界深度(ピントが合って見える範囲)は4.15cm、後者(0歳児顔アップ)は1.71cmらしい。

同様の写真を、SIGMA 85mm EX DG HSM(f/1.4 フルサイズ用)+APS-C機で撮ることもある。この場合の被写界深度は前者2.91cm、後者1.20cmらしい。

もし、同じレンズを使い、フルサイズ機で同じ様なシーンを撮ろうとすると、撮影距離が大人のバストアップ1.4m、0歳児顔アップ80cmに縮まる(最短撮影距離を下回ってしまうが)。この場合の被写界深度はF/2.0レンズで3.06cm、0.95cm。F/1.4レンズなら2.14cm、0.67cm。

数字が並んでややこしいが、どうやらフルサイズ化すると被写界深度が0.5~1cm程度、今のAPS-Cポートレートよりも小さく(ボケやすく)なるらしい。
...正直、この差を埋めたいという動機は自分には無いと思った。

大人はともかく子供はじっとしてくれない。今ですらまつげからピントが外れてしまうことがあるのに、これ以上ピントが薄くなられても困る。よほどのAF精度・スピード、MFの腕前が無いと宝の持ち腐れになりそうな気がする。
※もちろん、この場合実際は少し絞って撮ることになるだろうし、レンズは少し絞った方がシャープになる...とは思うのだが、これはまたボケを求めたフルサイズ化とは別の話だと思う。

というわけで、ポートレート撮影に関しては「APS-C+明るいレンズ」で自分には十分だという結論に。


5.フルサイズセンサーだから画質・ボケが良いという短絡的な表現は中身がない。フルサイズは、撮っている範囲が大きいから解像「感」がアップする&被写体に寄れる(ボケる)。そして APS-Cと同じ位置から同じ画角で撮る場合、1.5倍の焦点距離のレンズを使うことになるから高画質(望遠ディティールが捉えられる)・ボケが大きいという話。


自分の頭を整理するとこうなる。フルサイズとAPS-Cで、本質的な写真の「質」が異なるわけではなさそうだ。

・APS-Cとフルサイズの違い ⇒ 基本的な違いはセンサー面積の違い「のみ」。APS-Cで撮っている画像領域の「外側」に新たに画素が追加されるが、ミクロレベルでの解像力は両者同じ。

・フルサイズの画質が良い(解像力が良い)とされるのは、撮れる範囲が外側へ広がることにより等倍~全体への拡大率がアップするため。同じ位置からAPS-Cと同じ画角で撮った風景写真のディティールが勝っている様に見えるのは、1.5倍の焦点距離のレンズを使っているのだから当然のこと。

・フルサイズのボケが大きいとされるのは、撮れる範囲が拡がることにより被写体に近づくことができるため。APS-Cと同じ画角で撮ったポートレートのボケ味が大きいのは、近づいている or 同じ位置から1.5倍の焦点距離のレンズを使っているため。

ボディをフルサイズにするだけで凄くハッピーになれるわけではなく、やはりレンズあっての話だということがよく分かる。

APS-Cでハイスペックのレンズを揃えていた場合、フルサイズでもそれ相応のレンズ(しかも焦点距離1.5倍のものを)を揃えてゆく必要がある。当然、費用はこれまで以上にかかってくる。ボディは頑張って乗り換えても、予算的にレンズのスペックを落とさざるを得ないようなら本末転倒になるかもしれない。APS-Cのまま良いレンズを揃えた方がよほどハッピーということも十分にあり得る。


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