29.フルサイズはAPS-Cよりもどの程度ボケるのか...計算してわかったこと①

SIGMA 85mm F1.4 EX DG HSM + Pentax KP(APS-C)
APS-Cのボケ量ではご不満ですか?
SIGMA 85mm F1.4 EX DG HSM + Pentax KP(APS-C)

APS-Cからフルサイズに移行すればどの程度ハッピーになれるのか?(その2)計算したらもっと大事なことがわかった...という話


以前「APS-Cからフルサイズに移行すればどの程度ハッピーになれるのか?」で、APS-Cカメラで主に小さな子供写真を撮っている自分がフルサイズへ移行すべきなのかどうかを色々と考えました。

その時の結論は「ボケ量に関して確かにフルサイズは有利だけれども、自分の撮り方の実用を考えると、あと0.5~1cmの被写界深度の薄さを求めて移行するメリットは感じない」というものだったわけですが、今回改めて色々と計算しビジュアルで表現してみました。

自分自身が結果(の傾向)だけ知りたいと思っていたので、途中の計算式などは割愛します。※MS Excelで被写界深度計算ができる「DOF_Calculator_Rev3_Web」というツールと三角関数を使っています。

計算をしてみてわかったことは次の7つ。今回は1~4について書きます。
5~7は次回分にて記載しております。

  1. ボケ量(被写界深度の薄さ)を得る上で、確かにフルサイズセンサーはAPS-Cよりも優位
  2. ただし同じ画角のレンズで同じ被写体を撮る場合、APS-C+F1.4 と フルサイズ+F2.8のボケ量を比べるとAPS-C+F1.4の方が僅かに上。
  3. APS-C、フルサイズとも、F値を小さくしてゆくことよりも、被写体へもっと寄って撮ることの方がより多くのボケ量を得られる。
  4. APS-Cからフルサイズへ移行するよりも、APS-Cのまま被写体へ寄って撮ることの方がより多くのボケ量を得られる。
  5. いわゆる「焦点距離の長いレンズの方が良くボケる」は、あくまで「同じ位置から撮影(当然被写体の大きさも変わる)」した場合のボケ量(被写界深度の薄さ)のこと。同じ被写体を同じ大きさで撮ろうとした場合、35mm F1.4でも85mm F1.4でも被写界深度は同等(びっくり)。この時、ボケに関して異なるのは背景にあるボケ像の画角に占めるサイズ(ボケた背景の見え方)。
  6. ある画角においては、ボケ量(被写界深度の薄さ)を得る上でAPS-C(もしくはフルサイズのAPS-Cクロップ)の方が有利なケースがある。例えばAPS-C 100mm F1.8に相当するボケ量が得られる同等画角のフルサイズ用150mmレンズは売られていない(と思う)。
  7. トリミング無しで子供やペットを適度な距離からアップで撮る場合、同じ画角でもAPS-C(もしくはフルサイズのAPS-Cクロップ)+85mmの方がフルサイズ+135mmよりも寄れる(例外レンズあり)のでボケ量を得るのには有利なこともある。


※「APS-Cで十分」だとか「やっぱりフルサイズ」だとか決めつけるものではありません(それは必要に応じて自分で決めるものだと思います)。自分で決めるために本質を理解しようとするプロセスが大事だと思います。また、自分はSIGMA、PENTAX、FujifilmのAPS-C機に加え、「オールドレンズの隅々までを瞳AFで堪能する」という目的で、SONYフルサイズ機&TECHART LM-EA7も使用しています。


被写界深度シミュレーション:APS-C 56mm F1.4(画角28°) vs フルサイズ 85mm F1.4(画角29°)

代表的な画角の中望遠レンズです。
このレンズを使って以下3つのシチュエーションをイメージして計算してみました。
「a.子供をバストアップで撮る」
「b.大人をバストアップで撮る」
「c.縦構図で大人の全身を撮る」

a.子供をバストアップで撮る場合

シチュエーションa APS-C & 56mm レンズで子供のバストアップを撮る場合 青が画面一杯に子供のバストアップを撮る場合の撮影距離
シチュエーションa APS-C & 56mm レンズで子供のバストアップを撮る場合
青が画面一杯に子供のバストアップを撮る場合の撮影距離
シチュエーションa フルサイズ & 85mm レンズで子供のバストアップを撮る場合 青が画面一杯に子供のバストアップを撮る場合の撮影距離
シチュエーションa フルサイズ & 85mm レンズで子供のバストアップを撮る場合青が画面一杯に子供のバストアップを撮る場合の撮影距離

・グラフの色の違いは撮影距離の違いです。青が一番寄った距離(被写体を画面一杯に)、黄色へ向かう程後ろに下がって離れます。
・横軸は絞り値です。左が開放、右へ行く程絞っています。
・グラフの高さが被写界深度です。低いほどピントが合って見える範囲が狭いです(ボケ量が大きい)。

全体的にフルサイズ+85mm(下のグラフ)の方が背が低いことがわかります。確かに、ボケ量(被写界深度の薄さ)を得る上で、フルサイズセンサーはAPS-Cよりも優位です

...と、ここまでは「フルサイズの方がよくボケる」の通説通りなのですが、自分が「へぇ...意外」と感じたことがいくつかあります。


1つ目が、APS-C 56mm F1.4 VS フルサイズ 85mm F2.8 ならばAPS-Cの方がボケ量が多い(被写界深度が薄い)こと(赤字の箇所の比較)。フルサイズなら何でもAPS-Cよりボケるかと言うとそんなことは無いようです。
ちなみに、F2.8と言うと高価な大三元ズームレンズなどで良く出てくる数値です。ボケ量に関して有利なフルサイズですが「APS-C F1.4よりもっとボケ量を」と考えた場合は、ズームではなくF1.4~F1.8クラスの単焦点レンズを用意しなければいけない様です。

余談ですが、以前フジフイルム社が「うちはフルサイズ参入はしない」と意思表明したインタビュー記事を見た記憶があります。その中で「ボケに関してフルサイズが有利なことは確かだが」と触れた上で、「ならば明るくて開放から使えるコンパクトなAPS-Cレンズを作れば良い」とも述べていたと記憶しています。事実、上記クラスの中望遠ではXF56mm F1.2 (重さ405g)なんていうレンズをラインナップしており、戦略が明確だなぁと感じます。


2つ目に感じたのが、(ボケ量に関して)被写体へ寄ることの重要さです(これはAPS-Cでもフルサイズでも同様)。
フルサイズ最短の撮影距離(青グラフ)を例に、開放から絞ってゆく場合の被写界深度を見ると、2段絞るごとに倍(F1.4で1cm、F2.8で2cm、F5.6で4cm)という感じです。
一方、被写体から離れる場合を見ると、絞り変化の時よりももっと加速度的に増加してゆくようです(開放最短1mで1cm、距離が倍になると4cm)。

F値を小さくしてゆくことよりも、被写体へもっと寄って撮ることの方が、より多くのボケ量を得られると言えそうです。

これは「もっとボケ量が欲しい」と思った時に、闇雲に「もっと明るいレンズにすれば...」とスペックを追いかける前に、「まずはもっと寄ってみるべきでは?」と自制することに役立つかもしれません。

また、フルサイズへ移行するよりも被写体へ寄って撮ることの方が、より多くのボケ量を得るために効果的とも言えます

上のグラフで例を上げると、APS-C F2.8で子供のバストアップを余裕たっぷりの1.5mの距離から撮っている人がいるとします(被写界深度7.86cm)。

この人が「もう少しボケが欲しい...」と感じフルサイズに変えた場合、同じ撮り方のままなら被写界深度は7.86cm->4.65cmになります。

片やAPS-Cのまま、あと半歩寄って1mから被写体を大きく撮るようにすれば被写界深度は7.86cm->3.43cmになるということです。これはフルサイズ移行よりも効果が高いということです。

※この改善cmに特段意味がある気はしませんが、安易なフルサイズ移行より 寄って撮ることで得られる効果の方が高いという例です。

そして改めて「子供を開放&寄って撮る」場合の被写界深度は「(自分にとっては)やっぱりAPS-Cで必要十分に薄いなぁ」と感じます。

この点については、人によっては「フルサイズの薄さじゃないと雰囲気が出ない」ケースもあろうかと思います。被写体が大人のポートレートなのでもう少し離れて撮りたい様な場合などは結構な差がつくのかもしれません。
という訳で、以下b cシチュエーションの計算結果も載せてみました。

b.大人をバストアップで撮る場合

シチュエーションb APS-C & 56mm レンズで大人のバストアップを撮る場合 青が画面一杯に大人のバストアップを撮る場合の撮影距離
シチュエーションb APS-C & 56mm レンズで大人のバストアップを撮る場合
青が画面一杯に大人のバストアップを撮る場合の撮影距離
シチュエーションb フルサイズ & 85mm レンズで大人のバストアップを撮る場合 青が画面一杯に大人のバストアップを撮る場合の撮影距離
シチュエーションb フルサイズ & 85mm レンズで大人のバストアップを撮る場合青が画面一杯に大人のバストアップを撮る場合の撮影距離


大人のバストアップを撮るようなシーンでも、APS-C VS フルサイズの差に関する傾向は同じです。

ボケ量に関してAPS-C F1.4 > フルサイズF2.8。
F値を小さくすることよりも寄ることが効果的。
撮り方を変えずにフルサイズ移行するよりも寄る方が効果的。

絞りF1.4開放で寄って撮る場合の被写界深度は、APS-Cで7cm、フルサイズで4cm。
この差に表現の壁はあるのでしょうか。

c.縦構図で大人の全身を撮る場合

シチュエーションc APS-C & 56mm レンズ縦構図で大人の全身を撮る場合 青が縦構図画面一杯に大人の全身を撮る場合の撮影距離
シチュエーションc APS-C & 56mm レンズ縦構図で大人の全身を撮る場合
青が縦構図画面一杯に大人の全身を撮る場合の撮影距離
シチュエーションc フルサイズ & 85mm レンズ縦構図で大人の全身を撮る場合 青が縦構図画面一杯に大人の全身を撮る場合の撮影距離
シチュエーションc フルサイズ & 85mm レンズ縦構図で大人の全身を撮る場合
青が縦構図画面一杯に大人の全身を撮る場合の撮影距離

大人の全身ぐらいになると、それなりに離れて撮る必要が出てきます。縦構図で全身+αぐらいの2mを収めた場合、APS-Cとフルサイズでは絞り開放で10cm以上の被写界深度差が出てくるようです。

...数値上ではそうなのですが、この差がどの程度写真表現の差に表れるのかを知るには、自分はまだまだ修行が足りないようです。


今回改めて思ったことは...

ボケ量(被写界深度の薄さ)を得る上で、確かにフルサイズセンサーはAPS-Cよりも「優位」ですが、それは「フルサイズにすればボケの世界が変わる」と言うよりは「ボケ量についてAPS-Cよりも余裕がある」と考えた方が自然かも...ということです。

余裕があるとは、「F1.8~F2クラスのレンズでも目一杯ボカせる」とか「被写体にそこまで寄らず、周囲に余裕を持たせて撮ってもボカしやすい(後でトリミングして仕上げられる)」といったことなのだと思います。
にほんブログ村 写真ブログへ にほんブログ村 写真ブログ クラシックカメラ・クラシックレンズへ にほんブログ村 写真ブログ カメラ・レンズ・撮影機材へ

コメント