33.高コスパレンズと称されるFE85mm F1.8 (SEL85F18) 人肌階調の違和感に耐えきれず半年でバイバイしました
スペック数値が高ければ良いレンズかと言われると全くそうでない場合もあるんだなと実感した話(FE85mm F1.8 [SEL85F18])
SONY FE85mm F1.8(SEL85F18)に関するネット上のレビューはどれもこのレンズを絶賛するものばかりです。
・85mm F1.8の明るさで10万円overクラスの他社レンズと比べて半分ぐらいの値段。
・上位レンズに匹敵~凌駕するほどの抜群の解像感。シャープなレンズ。
・若干の歪曲、ボケのざわつき、逆光耐性の弱さはあるが非常にコスパが高い。
絶賛レビューを読めば読むほど、以下の様な思考に誘導されます。
・SONY渾身の85mm F1.4 GMレンズは別格だとして、そこまで最高を求めずに妥協するならばこのレンズを選ぶべき?GMは大きく重くAFが遅いらしいがこのレンズは真逆なので、単なる妥協だけでない価値が見いだせるのでは?
・同じ明るさで倍の値段のZeiss Batis 85mm F1.8を選ぶ理由など無いのでは?
加えて、Batis 85mm F1.8を称賛しSEL85F18よりもここが決定的に良い と伝えてくれる様なレビュー記事が見つからないことも、この思考を後押しします。
まるで「安い上に上位レンズに迫るスペック、欠点も許容できる程度のささいなものしか無い」ように思えてくるこのレンズ。
今回は、このFE85mm F1.8(SEL85F18)についての半年間の使用所感です。
自分も中古で購入したのですが、なんとも言葉で表現しにくい「違和感」に耐えられなくなり半年でバイバイしてしまいました。数値と異なる主観的な感想は人それぞれですが、自分の場合値段を考えても許容できないレンズでした。
結論:個人的には「費用を抑えて85mm大口径デビュー」な方にはオススメできても、作品撮り(主に情緒的ポートレート)に使えるかというと「上位レンズが写し出す豊かな階調や雰囲気には足元にも及ばないから止めた方がいい」と言いたい。
今回、自分なりにFE85mm F1.8のネガティブ要素を敢えて言葉にしてみました。少々悪く書きすぎた負い目があったのか、書いた後読み返して、更にはこのレンズで撮った写真を見返してみて思うのは「自分の好みに合わないだけで、そんなに滅茶苦茶悪いレンズでも無いのかも...?」という微妙な感じもします。
「じゃあ他人におすすめできる銘レンズか」というとそれもまた違う。
自分は中望遠レンズが好きで沢山所有しています。どれもとても満足する写りをし、且つそれぞれ個性的な味を持っています。手前味噌で自分のレンズが銘レンズだと言うわけでは有りませんが、これらのレンズと同列に並んで活躍する様なことは一度もなかったです。このレンズで撮った1000枚以上の写真の中で(そもそも使うモチベーションがわかないレンズだったので撮った枚数も少ない)これはいい雰囲気だと感じた写真は「一枚も無い」。
※参考までに、自分が使って来た中望遠レンズ(換算85mm付近)です。
SIGMA 50-100mm F1.8/SIGMA 85mm F1.4 EX DG HSM/Pentax FA77mm F1.8 Limited/Carl Zeiss Batis 85mm F1.8/SIGMA 56mm F1.4 DC DN/Fujifilm XF56mmF1.2 R/CONTAX Planar 85mm F1.4 AEG/Carl Zeiss Jena Pancolar 80mm F1.8/KMZ Jupiter-9 85mm F2/KMZ PO2 2M F2
ネットのレビュー記事が嘘を書いているわけではありません。確かに数値で表されるスペック「は」高いと実感しました。ただ、スペックの近いBatis 85/1.8と悩むぐらいなら絶対にBatisをオススメします。両者の間にはスペックシートでは数値化されない圧倒的な表現力の差があると感じます。
子供スナップで半年しか耐えられなかったSONY FE85mm F1.8(SEL85F18)に関する主観的評価
1.顔に当たる光と影の描写がとにかく気に入らない。階調表現が雑(チープ?)と言えばいいのか、RAW現像で対処しようにも非常に骨が折れる。
特に室内灯の下や天井バウンス時、太陽が高い位置にある時など、上から光が来る状況で頻発する「まるでバットマンのロビンか秘密結社鷹の爪の吉田くんかと思うような目の周りの妙な影」と「逆にまるでストロボを直当てしたのかと思う様な頬骨やおでこ、鼻の広範囲でべったりとした白飛び風の肌(実際は白飛びはしていない)」これが非常に気に入らない。
FE85mm F1.8+α9で撮影したRAW画像をCapture One 20で開いた初期状態(補正なし) ※背後の赤く塗られた箇所は「白飛び」警告箇所です。 |
手前の部屋と奥の部屋では室内照明の色味が異なり「ちゃんと撮る」には程遠い光の状況ですが、子供撮影ではよくあること。もちろん咄嗟に撮ったものなのでストロボ無し(ISO800/F1.8/シャッター速度1/125のマニュアル設定)。
小さな画面やモニタの設定次第では違和感は無いかもしれませんが、MacBookのRetinaディスプレイで現像している自分の初見イメージは「全体的に顔の影が濃い(暗い)よねぇ」対して「鼻筋は白飛びしてる?」でも、左上のヒストグラムや白飛び警告箇所を見る限り飛んでいるわけでは無い。
この、明暗がくっきり別れて階調の連続性がない感じがとても気に入らない。肌の質感・立体感が失われてしまう感じ。なんだか祭りで売られているお面の様な人工的な凸凹感...。
FE85mm F1.8で撮った上記写真のヒストグラム(横軸は明るさ:右が明るい、縦軸は画素数) |
写真では、向かって左に暗い背景、右に明るい背景があり、ヒストグラム上でも明部と暗部にそれぞれ山があるのですが、これは無視して捉えてください。問題は顔の各所についてのヒストグラム位置。中央部は低い位置でほぼ真っ平らなのに対し、暗部と明部(の背景を表す山)にへばりつく様な形で急激に立ち上がっています。これは、顔の描写が非常に明るい部分と非常に暗い部分に偏っていることを表しています。明暗背景の山を差し引いて考えても極端な『バスタブ型』。
「明暗コントラストが高め」と言うと現代レンズの良い点の様に聞こえますが、この違和感は「高コントラスト」と表現されるものとは違うと思います。まるで「光のあたってるところはより明るく/当たっていないところはより暗く」と人為的に誇張されているのでは無いかと勘ぐりたくなるぐらいの違和感を感じます。
「ライティングをもっと工夫すれば?」「RAW現像で調整できるのでは?」どちらもごもっともなのですが、子供のスナップを撮るのにいちいちそれをしなければ違和感を解消できないレンズってどうなのよ?というのが素直な感想。
手持ちの他のレンズ(オールドレンズも現代レンズも)では同じ光環境で撮ってもこの様な違和感は全く発生しません。ストロボに関しては、いろいろ試した結果、順光気味にバウンスさせてほぼ均一に光が当たる様に撮った場合この違和感は解消されます(影が無いので当たり前ですが)。女優ライト的に光量たっぷりの状態でモデルを撮る展示会の様な状況で、肌を白く明るく撮るのなら、想像以上のパフォーマンスは出るのかもしれない。インスタ映えレンズ?美白レンズ?それは当たっているかもしれないけれど自分の撮りたい写真では無いのです。
この違和感が気になり出した後に、各種レビューやサンプル画像をもう一度見ると違和感が確信に変わります。女性ポートレートが多いのですが、レフ板やストロボで顔に出来る影を消している写真か、白飛び上等な明部&プラスに露出補正された暗部な写真(色白の肌には見える)。何だ皆さん、言わないだけで色々苦労(工夫)してるんじゃないでしょうか...。
また、この違和感を解消するためのRAW現像はなかなか難しいのです。
子供の写真なので全体的にはもっと明るい写真にしたいのですが、白飛び手前の箇所に顔の画素が集中しているため露出補正をプラスにするとすぐに白飛びし、鼻&頬骨真っ白おばけになってしまいます。
簡単に思いつくのは...
「肌の一部が白飛びしている?(実際には飛んでいないけど)」→ハイライトを下げる
「影の部分が暗すぎる」→シャドーを上げる
となるわけですが、これをやるとHDR合成写真の様な加工臭の強いものができてしまいます。考えてみれば、どちらの操作も明部と暗部に張り付いたヒストグラムの山をずらすだけで、山自体をなだらかなものに変えてくれるわけではありません。特にシャドーアップは、頬にまだら模様の様なものが浮かび上がってくる感じになることが多くダメです。
なので、他にもいろんなパラメータをいじる羽目になります。自分はあれやこれやとパラメータをいじり、「現像迷子」になりながら半年使用しましたが、すっかり疲弊してしまいました。トーンカーブを調整するのがうまい方ならば、早く理想に近づけるかもしれません。ただこれを写真一枚一枚やっていくのは非常に面倒ですし、そうまでしてこのレンズを使い続けたいとは思いません。
2.「解像感の高さ」は却って仇になる気がする。
ネットの各種レビューの通り、解像感は非常に高いです。まつ毛はもちろん、産毛や顔に付いたゴミなんかもハッキリと写ります。ネットレビューにある様な「解像感が高く非常にシャープなレンズ」この文言に間違いはない。Batis1.8/85も含めた手持ちの中望遠レンズと比べてもトップクラスにシャープ。
ただ、子供スナップを撮っていて思うのは「肌の階調表現が雑なのにディティールの形状のシャープさだけ高くても更に違和感が高まるだけ」なのです。過剰なコントラストと相まって頬の暗部にたくさんのアザがあるかの様な印象を受けてしまいます。
子供の柔らかな頬の質感が失われ、お祭りのお面の様な感じになっているのに産毛だけしっかり写っていても...なんだかゴミを見つけてしまった様な気分になるのです。なのでRAW現像ではディティール描写を弱くして落ち着かせることがよくあります。
3.色味(彩度)も強すぎる様な気がする。
コントラスト、解像感に加えて彩度も強すぎる気がします。「濃厚な発色」とか言う感じではなく、36色のうち濃い目の12色だけ選んだ色鉛筆を使って描いたというか...。うまく表現できないですが、RAW現像で彩度を落としたら少し落ち着くということがあります。
4.違和感がマシになる様にRAW現像してみた...ら、やってることは結局このレンズの高評価ポイントを打ち消すことばかりでした。
FE85mm F1.8で撮った上記写真を、現像迷子になりながら明るい雰囲気に補正。 何ということの無いスナップ写真ですが、各補正値スライダーの暴れっぷりがひどい... そしてこれがマイベストかとそんなことはもちろん無くこれでやっとスタートライン。。 |
Capture One 20での補正工程はこんな感じです。
まずはコントラストを大きく引き下げ、ヒストグラム全体の幅を中央に寄せます(平坦だった中央部に寄せるイメージ)。その上でCapture Oneオリジナル(?)の「明るさ」を大きく上げます(Light Roomのトーンカーブで中央部分を持ち上げて補正する様な働きをします)。これで顔の明るさの印象が大きく変わります。必要に応じて全体の露出も上げることがありますが、どちらの場合でもやはり顔に白飛び箇所が出てくるので「ホワイト」や「ハイライト」を落としてバランスを取ります。また、左手の暗い背景は明るくしない方が締まると考えたので、ブラック(最暗部)はMAXまで下げています。
ディティール描写に関するクラリティー、ストラクチャも下げています。更に彩度も少し落として...。
コントラスト、解像感、彩度を下げる...やっていることは全部このレンズの売りを打ち消すことです。それだけ、このレンズで撮れる写真の印象が「どぎつい」のだと思います。もっと良く見せるためのRAW現像ではなく、ひたすら違和感を帳消しにするためのRAW現像に追われる...。そう感じてしまったらもはやこのレンズを所有する意味はありません。
※ちなみに、普通のレンズで撮ったRAWデータでコントラストをここまで下げると明らかに軟調なテイストになってしまいます。このレンズではそうならない...ということは、元々がどんだけ高いコントラストしとんねん...。
各補正値スライダーを大暴れさせながらヒストグラム中央部分で肌の質感を出そうとしています。
こうやって比べると、調整前の方がリアリティ・迫力があり、調整後は扁平な感じに見えますね。ただ、一般的には女性や子供の写真に求めたいのは迫力ではなく柔らかさなのだと思います。パット見では明るく補正するのは簡単そうに思えるのですが、中間階調がバスタブ型の様なヒストグラム分布で明と暗に振り分けられている(勝手な想像ですが)ため、全体露出を上げればすぐに明部が一気に白飛びし、暗部を持ち上げると持ち前の高解像によるディティール描写と共に黒い部分が一斉に立ち上がり、アザが浮き出る様な印象になります。
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